新作能「小栗上野介」ポスター
11月13日に横須賀芸術劇場で上演する新作能『小栗上野介』。
「幕末の歴史を能で?」 そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私がこの作品で描きたいのは、幕末の勝者と敗者ではありません。 また、小栗上野介という一人の人物を英雄として描くことでもありません。
描きたいのは、「人は誰のために生き、誰のために死ぬのか」という、人間にとって普遍的な問いです。
そのため、この作品には、小栗上野介だけではなく、万延元年遣米使節の仲間たちも霊となって登場します。
史実では、意見が対立した人もいたでしょう。 考え方の違う人もいたでしょう。
それでも私は、死を覚悟して太平洋を渡り、日本の未来のために力を尽くした彼らを、一つの志を持った「仲間」として描きたいのです。
考えてみれば、日本にはかつて宗派や信仰の違いから争いが起こった時代がありました。
しかし、時代を経るにつれ、日本人は「違い」を受け入れ、神社にもお寺にも自然に手を合わせる文化を育んできました。
能もまた、その歩みを映してきた芸能です。
神を敬い、仏を敬い、亡き人を弔い、人の心に寄り添う。
特定の宗派を説くのではなく、人の命や祈りを見つめ続けてきた――それが六百年以上受け継がれてきた能の世界です。
だから私は、この新作能『小栗上野介』でも、「誰が正しかったか」を描くつもりはありません。
歴史にあった対立を超え、魂と魂が結ばれる世界を描きたい。
争いではなく、祈りへ。 分断ではなく、和へ。
それこそが、能だからこそ表現できる世界であり、今を生きる私たちに届けたいメッセージです。
ぜひ劇場で、その静かな祈りの世界をご覧いただければ幸いです。


